
56cm。
ここまで成長するには、およそ15年から20年かかると言われています。
10万粒以上の卵の中から生存競争に勝ち抜き、
敵無しとなるまで成長して、悠々と大海を泳いでいた。
それが、たった1本の針と糸により
今私の前に食材として横たわっている・・・
ただの食材には感じないだろう、このアコウに対する
えも言われぬこの気持ち・・・それは
自分の持ちえる技術を集結し、至高の料理としていただくこと。
これこそ私が貴方に送る
心して研いだ包丁を、エラ蓋から右斜め150度に鋭く
第一刀を・・・・入れる。
うおぉぉ!!骨が硬すぎてこれ以上、刃が進まないぃ!!
こぉのこのこのこのこの!!こんのぉーーーーー!!はぁはぁ・・・
ほ、包丁の刃元が欠けちゃったよ・・・・。
ガッツン!!ガッツン!!ガッツン!!ガッツン!!
ふぅふぅ・・・・
硬い地面にまな板を置いて、頭と尾っぽを目打ちで固定し、
プラスチックハンマーで包丁の背を叩きまくって、
何とか三枚におろせた・・・ぞ。臭い事述べて置きながら、
結局、
土木工事みたいな方法で料理しちゃったよ・・・
さて。
半身の厚さもかなりのもの。
躍動感を感じる身に、薄っすらとしたピンク色の身がとても綺麗ですね。

頭は半分に割って(これも土木工事で)
湯引いてヌメリと血合い、鱗を取り除きましょう。
30分ほど灰汁を掬いながらアラを煮出したら、
野菜と、切り身を入れて・・・
アコウのちり鍋!
いただきます!!う・・・・・この・・・・・・出汁・・・・・大海原を生き抜いた力強さ!?
たくましい、たくましいぃぃ味・・・・出汁に浮かぶホツホツとした油は15年以上を生きた記憶の粒か。一口すすれば、「スパァン」と力強く海で過ごした魂が体の中に染み渡ってくるようだ・・・
20数年間、ぬるぬると過ごして来た私が味わっていいものなのだろうか?
いや。そんな私だから感じるのかもしれない・・・この
狼狽するほどに感動する力強い旨さを・・・
しかし・・・・・・
身。
旨い。確かに旨い。
身も確かに美味しいのだが、
しっかりとした身質は、熱をかけることによって硬く、
厚く切った身は固持なまでにその他の味付けと調和しない・・・・彼に対して感謝の念を送ることを決心した者として、
この料理に対して、最大の賞賛を送ることは・・・できない!!
では、刺身、そして皮の湯引きは・・・・!うん。皮の湯引きは、コリコリとした歯ごたえの中に
じんわりとした、深い、深い旨さが広がる・・・
そして刺身。前回は比較対象がいたので
「そうでもない」と感じてしまったが、
薄く削ぎ切った身は、氷を割るかのごとく。細い一本の筋が通った味わいは、
ほのかな余韻を残し喉を通る・・・。
出汁の力強さと比較して、
なんと上品、高貴すぎる食味なのだろうか!!
・・・・・見えた。
私の思う最大にして最高の感謝の料理。
出汁の力強さ。そして身の高貴さの両方を併せ持つ一品・・・・
それは
アコウのそぎ身に叩いた梅干、昆布、浅葱を散らし・・・・・
沸騰した出汁を入れた、
アコウの梅昆布茶漬け。
出汁を注いだら、即座に喰う!!熱い力のある出汁で薄く熱の通った身を口にいれ、
その柔と鋼の狭間をかみ締めると・・・・強く、たくましく、そして気品高い、
至高な味わいが同居した一瞬・・・
熱で茹だれる寸前に見せた一瞬に見せた複雑な食味・・・・
凡庸、あまりにも凡庸な感想。
しかし、私にはこの感動を表現する語彙力が足りない。
しかし、この感動の心を
言葉では表現ができない私からの
最大にして最高の賛辞・・・・それは
毎週、死んだ目をして起き上がる月曜の朝を、
15分も早く出勤できるほどの元気を・・・頂きました!!