「ひーーーーっ！



ひーーーーーっ！！




ひーーーーーっ！！！」










「ちょ、ちょっと・・・ひーーーっ！！


ま、待ってくださいよぉ～っ！！」

ん？もうバテたのか？ さっきまでの元気はどうした？

「ふぅ・・・・ふぅ・・・・、


だって・・・・






「こんな、道が無いところを進むだなんて・・・


思っても見ませんでしたよ・・・・」

道が無い？ いや、ちゃんと道を歩いているよ。 動物の通り道、『獣道』をね。

「け、獣道？僕には、
闇雲に山を歩き回っているようにしか見えないんですが？」

・・・・これまで通ってきた道の木を見てみなさい。 根元に泥が付着しているだろ？

「お・・・本当だ。泥を擦り付けたような跡がありますね。
・・・・だけど、これが何か？」

それはイノシシの毛が擦れた跡だ。 つまり今まで歩いてきた経路は、 イノシシが使用する獣道だったというわけだな。

「でも、その獣道を歩いて何をするんですか？？」

獣道に沿って歩けば、必ずイノシシの生活跡を発見することが出来る。 ・・・例えば、そこにある木の根元はイノシシが掘り返して出来た 『寝屋』だな。

「あ・・・確かに、自然に出来た穴には見えませんね。」

また、そこの窪地は『ヌタ場』と言って、 イノシシが泥浴びをする場所だ。

「ふ～む・・・。それで、
イノシシの生活跡を発見するのに、どんな意味があるんですか？」

シガキの仕事は、勢子の放ったイヌに追われたイノシシを 待ち伏せして仕留めることだが、イノシシは習性として 『使い慣れた獣道に沿って逃げる』んだ。

「つまり、獣道で待ち伏せしていたら、
イノシシが通りがかる可能性が高くなる・・・と。」

そうだな。ちなみに、この巣穴とヌタ場は長い間使用された形跡が無い。 つまり、今歩いている獣道はイノシシにとって『旧道』だ。 待ち伏せをするのは、最近イノシシが通ったような獣道である事が望ましい。 すなわちシガキの仕事は、決められた持ち場と時間内で、 いかに『生きた獣道』を探し当てられるかにかかっている。

「うう～ん・・・。獣道の良し悪しなんて、簡単にはわかりませんよね・・・。」

獣道の見切りは生活跡だけではなく、 足跡の乾き具合、落ち葉の潰れ方、 折れた小枝の断面、糞の有無など、色々な痕跡が判断材料になる。 ハンターには『観察眼』が重要だ。

「・・・か、観察眼。」





　　　　　　　　　＼！！／














（・・・・・・・。）

・・・ま、まぁ。 経験を積めば、見えてくるようになるよ。

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～

そろそろ開始の時刻だ・・・ あまりいい獣道を見つけられなかったが、 この付近で待ち伏せよう。

「待ち伏せって・・・本当に待つだけなんですか？」

そうだ。 獣道を決めたら、後はひたすら じっと待ち伏せる・・・。

「それは・・・退屈ですねぇ。
持ち場近くを歩いて周ったりしちゃダメなんですか？」

イノシシは鼻も耳も良い。 唯一の弱点は色を判別できないことだが、 動体視力には優れているから、動くものへの判別は優れている。

さっき、イノシシは使い慣れた獣道を逃げるって言ったけど、 我々の存在に気が付くと、決してその道は通らない。 だから、臭いで気が付かれない風下に陣取り、 物音を立てないように、体を低くして待機するんだ。

「でも、どうやって自分達はイノシシが近づいてくることを
察知するんですか？」

『音』だ。 イヌのイノシシを追う鳴き声、藪を掻き分ける音、 追跡を免れたイノシシが、小枝や枯れ葉を踏む僅かな音・・・ 様々な音から、イノシシの距離と方向、警戒度を察知する、 ハンターには『識別聴力』も重要だ！

「・・・し、識別聴力。」







　　　　　　　　　＼！！／










（・・・・・・・。）

・・・ま、まぁ。 経験を積めば、聞こえてくるようになるよ。

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～







「結局今回は、イノシシを見ることはできませんでしたね～・・・
ワンコは泥だらけですが。」

ところでジビエ君。君の銃は、鳥撃ち用だから、 イノシシを撃つときに使用する『スラグ弾』 を撃てないんだよね？

「・・・・ええ。『ウィンチェスターM1912』。
一応、スラグ弾も撃てるらしいのですが、
故障する可能性が高いらしくて・・・・。
いかんせん60年前の銃なので、替えのパーツが無いんですよ。」



「まぁ、今年いっぱいは鳥撃ちだけやって、
イノシシ猟はまた別の機会にしようかな～って考えていますが・・・。」

・・・・無理にとは言わないが、どうだい？ 銃を替えてイノシシ猟に参加しないか？

「う～ん・・・・。考えさせて下さい・・・・。」







👉Next：鳥撃ちに使う散弾実包えら
👉Prev：せいよくをもてあます
👉オススメ：実戦巻き狩り！ただいま修業中
👉オススメ：その反動は？スラッグショット！

・・・で。 今日は何か買いに来たのかい？

「あ、ああ、そうでした。
そろそろ『カモ猟』を始めたいんので、実包を買いに来たんですよ。」





「弾の大きさは・・・クレー射撃（スキート）で使った
9号散弾実包でいいですかね？」

い、いやいや！ 9号でカモ撃ちは無茶だよ！！

カモ猟は、大体1号～4号が使用されるよ。 4号より弾が小さいと、怪我をさせるだけの『半矢』 が多くなるから使用するべきじゃないね。 また、1号より大きいと肉の破損が激しくなるからね。

「結構、色々な種類の弾があるんですね・・・」


「ところで、『OOB』（ダブルオーバック）って弾は、
イノシシには使用できないんですか？

所属しているイノシシ猟のグループでは
『スラグ弾以外の使用禁止！』
って言われてるんですが・・・？」

OOBをイノシシ猟に使っている人はいるけど、 それは足止め用だ。 OOBは、パチンコ玉ぐらいの大きさなんだけど、 とてもイノシシを仕留めるほどのパワーは無いんだ。

これは使用前と、イノシシに直撃した際のスラグ弾だ。 球体の鉛玉には無い衝撃の強さが見て取れるでしょ？

「親指の先ほどの鉛玉が、こんな形に変形するなんて・・・
コレぐらいの衝撃がないと、イノシシって倒れないんですね。」

また、スラグ弾は1発弾だけど、 OOBは6～9発装填されている。 つまり、単純に事故が起こる可能性が6～9倍高いんだ。 たかがパチンコ玉程度の大きさでも、 人やイヌに当たれば大怪我を負ってしまうからね。

「そもそも、なぜ僕の持っているM12ではスラグ弾を撃てないんですか？
『フルチョークだから』とは聞いていましたが、
それが何の問題があるのか、よくわからないんですよ・・・」



 
 

チョークとは、銃身の先端の内径の違いだ。 ジビエ君のM12は、フル固定式の銃身だから 銃口付近が銃身の内径に比べ1mm狭くなってるんだね。

「つまり、スラグ弾が銃口を通りぬけられないのですか？」

いや。一応フルでもスラグ弾は撃てるよ。 スラグ弾は中空で弾力性があるから、銃口を通り抜けることは出来る。 ただ、連射をすると過度な圧力がかかった先端部が 膨張するなどの変形が生じる可能性が高いんだ。 一般的にスラグ弾は、モデ（1/4絞り）までと言われているね。

「う～む・・・。
一体、何のためにチョークなんてものが付いているんですか？」

それは、散弾の『パターン』を調整するためだよ。

空中でばら撒かれる散弾を『網』と考えてみたとき、 網の目の形状をパターンと言う。 チョークが狭いほど、パターンが狭く密（小さく細かい目の網）になる。 チョークがない場合は、パターンが広く疎（大きく粗い目の網）になる。

クレー射撃において、 スキートは横移動が多いため、広く拡散するチョーク（平筒）。 トラップは奥に逃げていくため、狭いチョークが使用されるんだ。

「なるほど！うぉ～っ！早くカモ猟に行きたいっ！！
とりあえず4号の散弾を下さい！！」

はいはい。 じゃあ、『アレ』だしてね。

「『アレ』？・・・・

ああ、『火薬類譲受許可証』ですね。」

うん？・・・ジビエ君。この許可証では 弾は売れないよ。

「ええっ？どうしてですか？？
まだ許可数の800発は越えていないですよ？」

いやいや、そこじゃなくて、 『譲受目的』が『標的射撃用』になってるよね？ 狩猟に使用する場合は、『狩猟用』で許可を 貰っていないとダメだよ！

「じゃ、じゃぁ、また警察署に言って申請してこないといけないんですか・・・？」

猟期に入る前に、猟友会から『火薬類無許可譲受許可証』を交付されているよね？ あれなら狩猟用の実包が300発まで警察の許可が無くても購入できるよ。

（あっ・・・・あ、あれか。）



「・・・・い・・・・家に置いてきちゃいました・・・。」

なら申し訳ないけど また来てもらうしかないね・・・。

👉Next：カモ猟の動きは猫が獲物を狙うがごとし
👉Prev：巻き狩り、シガキの役割
👉オススメ：ウィンチェスターと初めて出会った日の思い出
👉オススメ：チョークのこと、もうちょっと詳しく

　　　　＼カモぉぉ！発見っ！！／






　　　　　　　＼喰らぇ・・・・って。／




「・・・って、逃げられた。」

当たり前だっ！ そんなにドタバタ近づいたら、 警戒されるに決まっているだろ！！

「ん・・・・まぁ大丈夫！
次は飛び立つ前に撃つよ！！」

ふぅ・・・・いいか？カモは ①数キロ先を見通す視力。 ②300度ほどの視野角（ヒトは120度ほど） ③三原色＋紫外線を視認する色彩力。 ④数百メートル先の音と空気の流れを聞き取る聴力。 そして鳴き声で仲間とコミュニケーションを図る知能を持ってる。

そんな相手に対して、 散弾銃の射程距離はせいぜい30mだ。 警戒されたら最後、カモに限らず 野生動物に近寄る事なんてできないよっ！

「う・・・・確かに、例え公園にいるカモでも、
捕まらないように、絶妙な距離を保ってるよね。」

ちなみに 獲物に気付かれない様に近づき仕留める 狩猟のスタイルを『忍び猟』と言うよ。

「『巻き狩り』と違って、能動的な狩猟法だね。

しかし、気付かれない様に近づくってどうすればいいの？」

う～ん・・・ 簡単に言えば『自然に溶け込む』かな。

「それじゃあ、漠然としすぎてよくわからないわ。」

そうだなぁ～・・・ じゃあ、逆に質問するけど、 忍び猟をする日って、どういう天気が 一番適していると思う？

「え？天気？そりゃまぁ～・・・」





「今日みたいに、
天気が良くて風も無い日が一番の狩猟日和だろ？」

いや。忍び猟に適した天気はそれとは逆。 雨が降って足音や臭いが消え、 強い風が木々がざわめかせて、こちらの動きが カモフラージュされるような天気だ。

「つまり、背景（自然）の一部として動くって事か。」

そのためには、なるべく背景に溶け込める服装の迷彩柄を着用したり、 視線を隠すためのサングラスをかけた方がいいよ。 ただ、僕は安全のために猟友会ベストを着てるけどね。

「う～ん・・・・。言いたい事はわかったけど、
具体的にどうやって動くか、まだピンと来ないなぁ～。」

わかった。 じゃあ、この先を偵察してくるから見ててね。 あと、一応無線の電源を入れておいて。

「お、おう。わかった。」







カサ





（・・・・・。）









カサ





（・・・・・姿勢は低く、木々で視覚に入らないようにしているのか？）









カサ




（・・・・・動きは非常にゆっくりだけど、止めないように動いているのか？）








カサ

（風が吹いて葉っぱが揺れるのに合わせて動いている・・・・って感じなのか？）

・・・・ザッ ・・・ジビエ。聞こえるか？

「あ、後ろで見ていて、ちょっと判ったよ！
ああやって、自然の動きに合わせて行動するんだな！」

・・・・ザッ ああ、その話は後で聞く。それよりも凄い獲物を発見した。 池の奥に『青首（マガモ）』がいる。

「ま、マガモっ！？
それで捕獲できそうなのか？？」

・・・・ザッ ・・・・いや。射程距離ギリギリって所だ。 そこで作戦がある。

「作戦っ？」

マガモを発見したのは池の端、 今、ジビエのいる方向を向いて泳いでいる。

 

僕が今から発砲すれば、外れたとしても そっち側に飛んで行くはずだ。 そこで、マガモを狙撃してくれ。

「わ、わかった！」

うまくいけば、人生初の獲物が『マガモ』だ。 気合入れていけよ～。 ・・・・プッ

ﾊｧ・・・・・ﾊｧ・・・・・・・

（マガモ・・・マガモ・・・憧れの王者『マガモ』っ！！）

 

（そして遂にM12が猟場で火を噴くときが来た！！）







（・・・落ち着け・・・落ち着けよ。）



（射撃の基本を思い出せ～・・・・
『獲物は目で追わず照星で追う』
『獲物の進行方向の少し先を撃つ』

・・・・よし。）




（いつでも来いっ！！）




（！！）








（来たっ！）






（当たれっ！！）


























（・・・あれ？）
（弾が・・・発射しないっ！？）





（これってもしかして・・・・）




（うおおおおおおおおっ！
しまったーーーーーっ！）




（『セーフティーロック』解除するの忘れてたっ！！）

・・・・ザッ おい？どうした？なんで撃たない？ そっちに飛んでいかなかったか？

「・・・・・・・・・ああ。」





「こっちには飛んで来なかったよぉ～。」



（続く！）



👉Next：デコイとコールで野生をだませ！
👉Prev：カモ猟の散弾実包、どんなサイズがオススメ？
👉オススメ：教えて！ショットガン
👉オススメ：トラップ射撃で弱点分析

「はっ！！

と、ところでさぁ！
鴨猟は忍び猟以外に方法は無いの？
気が付かれない様に近づくのは難しいな～・・・」

ん？忍び猟以外なら、 飛来してくる鴨を『待ち伏せ』する方法もあるよ。

「えっ！待ち伏せ！？」

 


「でも、飛来してくる鴨が射程距離内に降りて来るまで待つって
ものすごく非効率的じゃない？」

うん。だから待ち伏せする場合は、 『デコイ』と『鴨笛』を使うんだ。

「デコイ？鴨笛？」

デコイは動物の姿を模した人形の事だ。 鴨猟では、カモのデコイを十数個待ち伏せする場所に浮かべておく。 こうしておくと、本物のカモが（仲間がいる＝安全な場所）と勘違いして 飛来して来やすくなるんだ。

「デコイを設置しておくだけでいいなら、忍び寄るよりも簡単だね。」

ただし、デコイだけでは効果は薄い。 鴨は聴力も優れているから、デコイから全く音がしない事 に気が付かれると、偽者だとばれて逃げられてしまうんだ。

そこで使用するのが『鴨笛（ダックコール）』だ。 これは吹き方を変えることで『採餌声（feeding call)』、 『歓迎声（hail call)』、『呼び戻し声（comeback call)』 などのカモの擬声を発することができる。

このデコイと鴨笛を使って、待ち伏せしている場所に誘き寄せる猟法を 『デコイ猟』と言うよ。 鴨笛は複数個でハーモニーを作ると効果が高い事から、 通常はグループで行うんだ。

「ふ～む・・・。こう色々話を聞いていると、
狩猟を始める前までは『銃を撃てれば獲物が取れる』と思っていたけど、
忍び猟にせよデコイ猟にせよ、銃を撃つまでのアプローチが
狩猟の肝なんだね。」

『射撃技術（シューティング）』の話ばかりが狩猟で取り立たされるけど、 『忍び寄る技術（スニーキング）』や、 『隠す技術（カモフラージング）』、 『追跡する技術（ストーキング）』、 『欺く技術（デコイング）』など、 多彩な技術が必要とされ、また一つ一つ奥深いものだ。

だから弾を当てることばかりではなく、どうすれば 『あと1ｍ近づけたか』などの疑問を考察する事も重要だ！

「野生動物との壁をどれだけ低く出来るかが大事なんだね。」

んっ！？ ・・・・ちょっと静かに。

（？）




 


（何だ？何を狙ってるんだ？）






（・・・・あっ！！）



















「・・・『カルガモ』？」

随分と高度が低かったうえに、途中で高度を上げようとしていた事から、ギリギリまでこちらに気がついていなかったみたいだね。

それにしても、このカルガモ、 マガモを撃った時の銃声が聞こえてたはずなのに、 何でこの池に近寄ってきたんだろう？？ 山の反響で銃声の位置がわからなかったのか・・・ う～～ん・・・判らないなぁ。

 「さすがに相手が動物だけのことはあって、
一筋縄にはいかないねぇ～。」






👉Next：あのカルガモを…仕留めたい！
👉Prev：カモ猟の動きは猫が忍び寄るがごとし
👉オススメ：マガモは出汁の”香り”もうまい
👉オススメ：カモ撃ちはスキート射撃で練習だ！