かちかちやまの 『たぬきじる』

<前編はこちら>

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前回、タヌキ肉は
『臭くは無いけど美味くもない』
と述べましたが、焼いただけの簡単な料理方法で
その肉の全てを語るのは早計です。


普段私たちは、どんな料理法にも合う(ように改良された)
牛、豚、鶏肉を使い慣れすぎているため気が付かないのですが、

肉にはそれぞれ合う料理法が明確に違います。


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例えば『ジビエの女王』と呼ばれるリエーブル(ヤブノウサギ)、
かわいい味のイメージに反して、
実は
非常に臭いがキツいうえに肉質が固く、

簡単な調理法ではとても食べられません。




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そこで、リエーブルをコニャックに漬け込み、
ワインでコトコト長~い時間をかけて煮込んで臭味を飛ばします。
こうして出来上がるのが、

全てのフランス料理の頂点に立つと言われる料理

『リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル』です。


つまり肉という食材は 美味いか・不味いかでは無く、
『美味いか・美味く料理するか』なのです。
もちろん、ここで使う『料理』と言う言葉には、
捕殺から解体放熱熟成の行程も含んでいます。





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ではタヌキ肉には、どのような料理法が適しているのでしょうか?
これに関して古い文献を探すと、
必ず紹介されているのが『たぬきじる』
です


ただし、この『たぬきじる』、
皆さんが想像する『狸汁』ではありません。


狸汁はコンニャクを用いた精進料理の事で、
タヌキ肉を使った本当の『たぬきじる』は
『狸斟羹
と書き、汁料理ではなく羹料理です。



羹
この『羹(あつもの)という字、
具材と調味料を長い時間をかけて煮込む料理を意味し、

シチューやポトフのような料理法を指します。


つまり『
狸斟羹(たぬきじる)』は、
味噌汁のような汁料理ではなく、
味噌煮込み料理なのです。




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と言うわけで今回は、童話カチカチ山でお爺さんが食べていた
狸斟羹(たぬきじる)』
原作レシピ完全再現で行きますよぉ~!








さて、まずは料理のベースになる出汁。
やはりここは昆布鰹節・・・

・・・って、そんな超高級品が、

カチカチ山の爺さん婆さんの家に
あるわけがないですよッ!
カチカチ山の舞台は14世紀の室町時代以前、
昆布、鰹節が一般に利用できるようになったのは明治時代以降です。

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出汁なんて必要ありません。
骨を付けたままブツ切りにして、
湯通しや塩なんかも付けずに水に放り込みます。


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これを炭火でじっくりと加熱し、ゆっくりとかき混ぜながら
時間をかけて煮込んでいきましょう。




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そそ、こんなイメージ。





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煮始めると結構キツイ獣臭が出ますが、
蓋を閉めてはいけません。

肉から出る臭いは
アンモニアメチルアミンなどの
窒素化合物なので、100℃以下の熱で揮発します。
つまり、臭味は
熱を加えて全部飛ばしてしまえばいいのです。
先にお話した『リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル』は、
3日以上も煮込む事があるそうですよ。











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煮込み続けて2時間経過。
臭いは次第に収まってきました。


もし、煮込む時間を短縮させたい場合は『酒』を入れます。
アルコールの『共沸現象』により、臭いの原因物質を
より短い時間で揮発させることが出来るからです。




ただし!
今回の『たぬきじる』に酒は使えません!



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カチカチ山の時代には清酒なんてありませんからね。

昔話に出てくるようなお酒は全て『濁り酒
(どぶろく)
今のような日本酒(清酒)が生まれたのは
江戸時代です。


 


wikipeddfddfia題 
ところで、タヌキ肉の臭い抜きと言えばwikipediaのこの記述。
これは別に伝承や、科学的な根拠に基づいたものではありません。







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この引用文献は1996年に発刊された
『あやしい探検隊 焚火発見伝』というサブカル本。


藁に巻いて1週間土に埋めてたら臭いが消えた!」
と書いていますが、これはただ藁の表面に存在する
『枯草菌』が臭いの原因となる窒素化合物を分解しただけです。
土に埋める必要なんて一切ありません。
・・・それに、食肉を土に埋めるという行為、
僕は食肉に対する冒涜のような気がして好きではありません。


ちなみに上記内容は、ここで試読できます



kamuino食卓

タヌキを扱った本で、僕がお奨めなのは『カムイ伝』の作者
白土三平のカムイの食卓

こちらは自分達で捕獲したタヌキを、
解体の様子も交えながら(臭線に関する記述も有り)料理しています。
このブログでも参考にさせて頂いている内容も多いので、
興味のある方は手にとって見られてはいかがでしょうか。
(ご紹介頂いた
『晴釣雨読』さん、ありがとうございました!)









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さて、そんなこんなで10時間後。
臭味は『風味』レベルにまで落ちついたので、
家に持ち帰り濾してみましょう。




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おお!調味料も一切入れていないのに、
なんて上品な色なんだッ!!




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濾したタヌキ出汁に、ごぼう、大根、えのき、乾燥しいたけ、
骨からほぐしたタヌキ肉を加えて、再び火にかけます。





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10時間煮込んだタヌキ肉、
ちょっと千切って味見してみると・・・・

こ、これはッ!!






(まだ硬いな・・・)








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と、言うわけで、20分ほど圧をかけましょう。





・・・え?
「圧力鍋を使うなんて、『原作再現』はどうした!」
ですって?



う~ん・・・
日本昔話を見ていたのは、もの凄く小さい頃だったので
記憶があいまいなんですが・・・






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タヌキが『圧力鍋』に化けるって話、ありましたよね?
確かカチカチ山でもティファールの圧力鍋が出てきたと記憶しています。




 
img_4107.jpg

さて、そんなズルもしながら、後は葛粉を溶かしてトロミを出し、
田舎味噌を入れて完成ッ!!


これぞ現代に蘇った、
『狸斟羹(たぬきじる)』!!
いただきますッ!!

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ふぉぉぉぉッ!
な、なんだこれはッ!
美味いッ!美味すぎるぞっ!!


まずこの素晴らしい匂いッ!まるで・・・
『太陽を浴びた朝露の残る山の香り』
だッ!




・・・うまく感想が伝わらなかったかもしれませんが、
要するに、今まで食べて来た料理のどれにも似た香りが無いため、
何かに似ているという表現ができません
言うなれば『タヌキ香』と言う一つの基準です。





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そしてこの味ッ!なんて

『もっふり』した味なんだッ!!



「食味をオノマトペで表現してもわかんねぇよ!」

と突っ込まれそうですが、

なんと言うか丸くてコロコロした味のイメージ・・・



うぅ~ん・・・

1941年に書かれたこのエッセイにも、タヌキの肉は
『猿の唇に相通じてゐる、なんとも言ひ現せぬ魔味』
と、訳の判らない表現がされているように、
他の料理と味の共通点を見つけることが困難です。
やはりこれも『タヌキ味』と言う一つの基準です!

とにかく、一言で言い表せれば
『美味しい』。
変な先入観で『魔獣』とか言っちゃいましたが、
無責任な噂に振り回されるのではなく、
古に学び、体験し、科学的な知識で理解する事
これが非常に重要だと感じました。



ずぎゃぎゃがや
それにしても美味しいなぁ~・・・
大鍋いっぱいにあった『たぬきじる』を2日で食べきっちゃいましたよ。
この『たぬきじる』を、カチカチ山のお爺さんも食べていたんでしょうね~。





(・・・ん?ちょっと待てよ。)




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(カチカチ山って確か最後に、
タヌキが泥の船に乗って溺死するんだよな?

・・・じゃあ、爺さんが食べていた『たぬきじる』ってなんだ?)





 
「・・・あッ!!」





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あれはタヌキが婆さんを撲殺して作った
『婆汁』じゃねぇかッ!!


・・・も、もしかして俺が食べたのも、
本当はタヌキじゃなくて・・・ッ!










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ハンニバル・ポンポコ・レクター

タヌキの意外な味。その真相は煮込み料理でしたか…
当方も狩猟肉最後のメニューは残った骨やら筋、トリミング片などをワインと圧力鍋で煮込んでのシチューなんですがひょっとしたら一番旨いかもと思ってしまうぐらい美味しいんですよね(^o^)
…それにしても「あやしい探検隊」。しばらく読んでないうちにそんないいかげんな検証をしているとは…まあ椎名誠氏の事なんで「丼」で腹一杯食べれれば何よりもウマいという事なんでしょうか(笑)

こちらQ州は春一番も吹き、ぼちぼちチヌの「のっこみ」です。東京からはQ州では狙えない「岩魚」がイケるんじゃないでしょうか?
ジビエさんにとっての二年目の関東はどんな舞台になるのでしょうか?
楽しみにしています(^_^)
[ 2015/02/23 03:32 ] [ 編集 ]

Re: 槍のナガサKI さん

タヌキを食べていると思っていたら、
タヌキに自分の脳を・・・

今回のタヌキスープ、煮た時に臭いがすると書きましたが、
イノシシスープの時も同じぐらい臭いがしますね。
しかし、どちらもたまらなく美味しいスープです!

『あやしい探検隊』、僕は世代ではないのでよく知りませんが、
テレビにも出ていた有名なグループなんですね。
ちなみに、タヌキ肉の件を書いた人は椎名誠氏ではなく、
もう一人の著者、 林 政明氏です。

おおッ!九州はもうノッコミの季節ですか~
僕も今年は是非、渓流釣りをッ!!
・・・と行きたい所なのですが、
申し上げにくい事に、このブログは4月末で・・・
次回、その辺もちょっと書かせて下さい。
[ 2015/02/23 22:03 ] [ 編集 ]

おお! これはまた美味しそうな一品ですねぇ
狸は、狙って獲ろうとすると小動物用の箱罠か、犬を使っての銃猟になるらしいのですが、来期に手に入れたら自分も試してみたいです

狸料理で今さら思い出したんですが
故:中村勘三郎さん主演の映画『弥次喜多道中テレスコ』の劇中にて狸の味噌鍋というのが出てましたよ
作り方も結構詳しく解説されてましたが、観たのが数年前なのでうろ覚えなため材料だけちょっと列記しますね
・狸
・味噌
・里芋
・長葱
・酒(出来れば甘口)

詳しい手順や材料の使い方は映画の方でご確認を(汗)
映画自体も面白いので一度観賞してみるのも悪くないかと(^o^;)

分福茶釜のルーツと言われている伝説の舞台である茂林寺は自分の住んでるとこの隣町(市)にあったりします
こちらは日本昔ばなし収録の分福茶釜とは異なり、茶釜ではなく所有者の和尚が齢数千年の古狸だったと言われています
今でも茂林寺にはその茶釜が展示されているので、近くにお立ち寄りの際には行ってみるのも良いかと(参詣無料、拝観有料)
[ 2015/02/23 22:19 ] [ 編集 ]

Re: グンマー さん

狸の銃猟は犬に臭いを覚えさせる訓練をしないといけませんね。
昔はタヌキ専門の猟犬もいたらしいですよ。
是非タヌキ料理に挑戦してみてください!
しっかり煮込めばとてもおいしいですよ~!

『やじきた道中 てれすこ』初めて聞きました!
結構新しい映画なんですね~。ちょっと確かめてみます!

おお!あれって群馬県のお話なんですね。
確か
「罠にかかったタヌキを助けた若社長、
ある夜お礼に現れたタヌキが圧力鍋に変化して、
これを巧みなセールストークで売って大儲け。」
って話でしたよね。
確か題名は・・・『分福タカタ』。


[ 2015/02/25 13:12 ] [ 編集 ]

煮込みがいきなり外で始まるあたり、さては部屋で煮始めて悪臭に耐え切れずに外に持ち出したとみました。しかも10時間も外で煮ている間、ジビエさんは何をしていたのでしょう?

どう考えても怪しスギ!

変なおじさんが寄ってきませんでしたか?
[ 2015/02/25 21:35 ] [ 編集 ]

Re: 海流美丸 さん

いつも鋭いご指摘ありがとうございますw
しかしそれは違いますよ~

悪臭が出る事を事前に予想した上で、今回は猟友宅の庭で七輪を使って茹でてました。
東京のアパートに住んでたら七輪なんて使えませんしねw
ゴボウをさきがけしている写真でキッチンの様子がちょっと映ってますが、
今まで(電磁調理器)と違うのはキッチンが友人宅の物だからです。
ちなみに、この猟友に味見してもらいましたが、
「臭みを抜いた山羊汁のようなうまさ」と言っていました。
僕は山羊汁を食べたことが無いのでよくわかりませんが・・・・

少なくとも、庭でタヌキを茹でているオッサン2人は
近所の人から見ると非常に怪しい人物に映ったとおもいます。

[ 2015/02/26 09:02 ] [ 編集 ]

すごい!なにが凄いって10時間以上料理をするジビエさんの根気w
それだけ手をかけて作ったものはさぞかし美味しかっただろうなぁ
お酒飲んだ後に飲みたい!と思いました
[ 2015/02/28 22:45 ] [ 編集 ]

Re: TAD さん

10時間中のほとんどは3DSで『ゼルダの伝説時のオカリナ』をやってましたがw
たぬきじる、どのような味を想像されていますか~?
おそらく今想像されいる以上に『濃い目』の出汁が出ます。
味もなんだか・・・たぬたぬしてますよ!
[ 2015/03/02 19:40 ] [ 編集 ]

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[ 2015/03/10 20:59 ] [ 編集 ]

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